
ほぼ一年がかりで、ご注文頂いていた訪問着が仕立て上がってきました。
慶長時代のおおらかで大胆な構図。
友禅ではなく、”絞り”や”かちん”といった辻が花の技法。
お客様の思いと染め屋さんの熱意が一つになって、
力のこもったいい着物ができました。

これはお客様が持って来られた新聞の切り抜き。
この写真からどうすれば今の時代に合う着物ができるのか…………。
お客様には何度もご足労をおかけしましたが、回を重ねてご相談させて頂き、
染め屋さんにはその都度、下絵を描き直して頂きました。
また重要文化財であるこの小袖を所蔵している東京国立博物館の学芸員の方から、
この小袖のもっと大きな写真を見ることのできる情報を教えて頂きました。

下絵は初め、A3程の大きさの紙に全体の構図を数種類、
次は、その中から選んだ一枚に修正を加えたもの。
そしてお客様の寸法に合わせて実物大の紙に。
それを身に当てて頂き、柄の位置を修正。
それでようやく実際の白生地に青花で下絵描き。
仮絵羽の状態でお召し頂いて、最後の調整。
上の写真はこの最後の、白生地に描かれた仮絵羽の一部。
とてもていねいな下絵です。
それぞれの色を切見本で指定して、染め出ししました。

上の写真は、縫い締め絞りで竹の地色を染めたところです。
この後、鹿ノ子絞りの工程です。

鹿ノ子絞りが入り、染め上がった状態です。



絞り染めと共に用いられている”かちん”
細い筆での墨書き。
細かくて優美な線書きは、
職人さんの腕が光っています。

これまで何百枚か、お客様のご要望でお誂えの着物を作らせて頂いてきましたが、
今回の ”慶長松皮菱竹模様小袖”は、とても上質のお着物ができたように思います。
ご依頼下さったお客様と、力を尽くして下さった染め屋さんには、
良い仕事をさせて頂いて、ありがたい気持ちでいっぱいです。