信州飯島 勝山健史氏の絹織工房 |

工芸帯地洛風林さんと、勝山健史氏、そして絹織研究の第一人者 志村明氏のご好意により、
長野県飯島にある、勝山織物 絹織製作研究所にお邪魔させて頂きました。
こちらへは何度か寄せて頂きましたが、これまではいつも8月で、
繭をぬるま湯に浸けて糸を引くところを見せて頂いたり、
塩蔵繭を作るために繭を塩で漬けるのを体験させて頂いたりで、
蚕が居る時季に寄せていただくのは、今回が初めてです。

蚕は品種毎に育てられていて、たくさんの桑の葉の上で、
頭を持ち上げて、眠っていました。

四眠中とのこと。
頭を持ち上げているのは、この姿勢が一番脱皮しやすいからだそうで、
蚕は眠りから覚めると脱皮して、それを繰り返す度に大きくなり、
四回目の脱皮をして五齢から熟蚕になると、糸を吐き繭を作り始めます。
品種によって異なりますが、5センチか7センチ位の大きさで、
五齢になると、もっともっと大きくなるそうです。

右の建物で蚕の飼育をしておられます。
蚕は薬などに敏感なので、
この建物内では、虫よけスプレーやムヒ等は使えません。

勝山氏の桑畑。
”ネズミガエシ” や"シンイチノセ” などの品種の桑が、
無農薬で栽培されています。

桑の葉に触れてみると、先の方が柔らかく、下の方ほど固くなっていました。
こちらでは、先の成長点を取り除き、上から12枚の柔らかい葉だけを、
蚕に食べさせているとのこと。
広大な桑畑が必要なわけですね。

工房の志村明氏から、絹に纏わる、お話しを聞かせて頂きました。
その時に見せて頂いた繭二種。
左の白くて大きいのが、”あけぼの”(蚕の品種名)の繭。
右の黄色いのは、家蚕の祖先といわれる桑子の繭。
桑子の繭は、志村さんが桑の世話をしているときに見つけて集めておかれたそうです。
これだけ小さいと、繭から採れる糸はわずか。

工房には機がかかっていました。
綜絖が三枚の綾織りです。
畑を耕して桑を育て、蚕を飼育し、繭から糸を取り、布を織る。
一連の工程をすべてこちらの工房でされています。
その間、様々な作業にこだわりを持ち細心の注意を払って、
美しい布が織り上がります。
美しい布を作ることに、熱い思いをお持ちの志村明氏。
この道を選ばれた訳をお聞きすると、
「一から全部、自分一人で作れることがしたかった。
やきものだと土を自分で作ることはできないし、
木工だと、木を育てるのに何十年とかかってしまう。
その点、絹織りだと、土を耕して桑畑をつくり数年で蚕に食べさせる桑の葉ができるでしょ。」
‥‥篤い思いは、尽きることがないようです。
<勝山織物 絹織製作研究所 について>
2002年 勝山健史氏が自身のものづくりへの想いから、
日本で一番養蚕と製糸に適した環境を求めて長野県飯島町に設立されました。
蚕へのストレスを防ぎ、すべての工程に一貫した姿勢で取り組めるように、
餌となる桑の育成から養蚕、製糸、染織の全工程を行っています。
有水羽衣などの制作と並行しながら、
国立博物館・ブリジストン美術館・(財)元興寺文化財研究所での修理事業などにも携わっておられます。
工芸帯地 洛風林さん、勝山健史さん、志村明さん他、皆様、
貴重な体験をさせていただき、どうもありがとうございました。
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桑の説明をして下さる、勝山健史氏。

桑の刈り取りをなさる、志村明氏。